仏教と人類運命共同体の構築

日中韓国際仏教交流協議会 理事

大本山 随心院 門跡

亀谷英央

この度の「第22回中韓日仏教友好交流会議中国大会」がここ中国広東省珠海市で開催されました事に主催国の中国仏教協会の明生副会長をはじめ、諸大徳、諸先生、善知識の皆様。各国からご参加の諸大徳、諸先生、善知識の方々に心より感謝とお慶びを申し上げます。

本日、私に与えられましたテーマは「仏教と人類運命共同体の構築」でありますが、大変大きくかつ重いテーマでありますので、浅学非才の身であります私に三国の仏教指導者であられます皆様方に、稚拙な考えを述べさせていただきます事をお許し賜りたく存じます。

さて本年5月に我が国日本では天皇陛下が御譲位なされて平成より令和という時代に移り変わりました。時代が変わり、象徴的な事件や事故が相次いで起きました。高齢者による自動車事故。いわゆる引きこもり者(社会との繋がりを断ち、仕事や学校に行けずに家に籠り、家族以外とほとんど交流のない人たちの事)をめぐる痛ましい事件。SNSを通じた(顔が見えない)心無いいじめ等々がクローズアップされ、あらゆる国々の指導者が自国ファーストを掲げて他国の平和を考えずに対立を引き起こしています。

5年前に発表させて頂いた時にも述べたのですが、異常気象が続き多くの地域が災害に見舞われており、世界中で不毛な争いが繰り広げられています。

もちろんそこには少なからず宗教が絡んでいるのも以前と同じです。

人は何故、争いや諍いをするのでしょうか?

歴史を振り返りますと人類は絶えず戦争をしてまいりました。個人と個人なら嫌いあってもまず殺しあったりはしません。(稀に我が国ではあります。)しかしながら、国単位となりますと戦争になって多くの人々が命をおとします。互いに冷静になり理性を働かせさえすれば戦争は起きないはずですが、人類の歴史上戦争が無かった時は残念ながらありません。

日本の歴史を振り返ってみますと紀元6世紀に朝鮮半島から仏教が伝来し、その仏教に深く帰依された聖徳太子様が十七条憲法を発布されました。その第1条に「和を以って貴しと為す」と述べられ、人々の争いや諍いを厳に諫めておられ、第2条に「篤く三宝を敬え三宝とは仏法僧なり」とあって、仏様とそのみ教えを伝える僧侶を大切にしなさいと述べられます。仏様のお力によって争いや諍いの無い正しい世の中を作ろうと言う聖徳太子様の思いが、この十七条憲法には込められています。これより仏法を国家の根本思想とする理想の国作りが始まるのですが、なかなかその理想に達する事が出来ませんでした。

時がたち平安時代(794年~1192年)になると当時の天皇、桓武天皇は軍隊を廃止し死刑も廃止します。ただしその皇子である嵯峨天皇の代になってやっとそれが実現します。桓武天皇は他民族等には討伐軍を送ったりその長を処刑したりしましたが、その皇子の嵯峨天皇は怨霊を恐れられて、完全に軍隊と死刑は無くなりました。どのような理由であれ軍隊や死刑が無くなる事は良い事でありました。正に仏様の教えにより日本という国家が形作られていったわけであります。

仏教とは平和を希求する宗教であり、その為我国では約1500年もの長きに渡って人々に篤く信仰をされてきたのであります。

日中韓の三国の人々の多くは、その仏教によって深く結び付いているのであります。以前、私は十七回の韓国大会の折りに、私国の仏教指導者の一人であらせられる空海弘法大師の不思議なお話をさせて頂きました。それは、般若心経を解読された『般若心経秘鍵』という解読書でありその後書であり後記の話であります。

空海弘法大師は『般若心経秘鍵』の中で、「無辺の生死何んが能く断つ、唯禅那正思惟のみ有ってす」と述べられておられます。即ち「限りない生死の苦しみをどのように断つ事が出来るのでしょうか。それはただ般若菩薩の徳である禅定の心と文殊菩薩の徳である正しい思考によるのみであります。つまり互いの譲り合いの精神と正義の心によってはじめて生死の苦しみから逃げられる。」と説いておられます。人々に「禅那正思」の心が宿ってこそ生死の苦しみから解き放たれるのであります。そしてこの『般若心経秘鍵』の中の後記に大切なことが書かれています。原文は以下に載せます。

「干時弘仁九年ノ春天下大疫ス。爰ニ帝王自ラ黄金ヲ筆端ニ染メ、紺紙ヲ爪掌ニ握ッテ、般若心経一巻ヲ書寫シ奉りタマウ。予講讀の撰ニ範ッテ経旨ノ宗ヲ綴ル。末ダ結願の詞ヲハカザルニ蘇生ノ族途テズム。夜變ジテ日光赫赫タリ。是レ愚身ガ戒徳ニアラズ、金輪御信力ノ所為ナリ。但シ、神舎二詣セン輩、此ノ秘鍵ヲ誦ジ奉ルベシ。昔予鷲峰説報法ノ莚ニ陪ッテ、親ノ是ノ深文ヲ聞キ、義二達セザランヤマクノミ。

入唐沙門空海上表』

要約しますと『平安時代の弘仁9年(818年)の春に京の都で病気が流行し、多くの遺体が山のはずれに打ち捨てられていました。これを見て時の天皇嵯峨天皇は大師様に「どうすればよいのであろうか?」と尋ねられました。大師様は「この世は天と地と人は一体となっているので人々の心が乱れるとこの世も乱れ多くの天災や地震が起こるのです。これを鎮める為には日本国民の代表たる嵯峨天皇様自ら般若心経を写書して祈られる事が最良の事でございます。」と答えられました。さっそく嵯峨天皇は柑経に金泥で般若心経を写書されました。傍らで大師様が般若心経の講伝(解説)を(これが般若心経秘鍵なのですが)されました。

不思議なことに嵯峨天皇が写経され大師様がいまだその講伝が終わっていないうちから、京の都では路上に打ち捨てられている死者や病も倒れた人々が蘇りはじめました。大師様はこの現象は私の般若心経の講伝の効力でもなければ私自身の徳でもない。嵯峨天皇の国の民を何としても救いたいという思いと般若心経自身のもつ功徳力が死者や病人を蘇らせたのだと仰いました。ですから神社(これは元々日本の国におられた神様を祭るお社)にお参りする時はこの般若心経秘鍵を讀誦しなさい。この事は私が(大師様が)昔インドの鷲峰山(霊鷲峰)でお釈迦様から般若心経のお話をお伺いした記憶から語らせてもらいました。』と書かれています。大変不思議なお話ですが、この中にはとても重要な事が書かれています。一つは人の心と天と地は一体であり、そのバランスが崩れると国土や人心が乱れるという事。そして一つは般若心経の功徳力による禅定の心と正しい思考が衆生を生死の苦しみから救う事が出来るという事です。指導者の民を思う気持ち、経典の功徳力、そして皆の正しい事をしようとする思いが合致した時に前述の様な奇跡が起こるのであります。仏教の力で平和な世が取り戻せるという事であります。

辞書に寄りますと「人類運命共同体」とは自国の利益を追求するとともに他国の利益にも配慮し、各国の共同発展を図ることを中心とする価値観であります。仏教は「人類運命共同体」と構築する為の最善のツールと言えます。

仏教の根本思想は「空」だと言われております。日本で過去極端な論として、全ての存在は「空」である為、不変の実体としての衆生は存在せず、例え衆生を殺しても実体として存在していない物は殺してはいない。つまり殺人を生じていない等という議論が有りました。「空」の思想が逆に戦争等を肯定する理論に利用されて来た歴史があります。

本来「空」とは実体の無い物であります。例えば「善と悪」「正と誤」といったものはそれぞれ実態があるわけではない物なので、執着する事は出来ないのであります。そしてそれぞれの関係が縁起によって成り立っているのです。一方だけの世界では成り立たない、苦があって楽があり、楽があって苦があるという。つまり本来どちらも無く、またどちらも存在するというのが「空」であり縁起によって成り立っているのです。そして最終的には慈悲の実践が仏教者としての要諦となると思うのであります。

仏教は一方だけでなく、他方にあって初めて成り立つ世界であり、人類運命共同体を構築する為の教えであると言えます。

我々宗教者は衆生を正しい道に導く強い責任を負っていると思います。人類運命共同体を構築する為に最善を努力する事こそが三国の平和とひいては世界平和に寄与するものと信じております。

最後に今大会を三国仏教徒の「黄金の絆」が一層深められ、世界各地の様々な紛争が解決されて仏教と人類運命共同体の構築が実現されます事を祈念いたします。私の未熟な講演をご清聴賜りまして誠に有り難うございました。

Copyright © 2009-2012 longquanzs.org All Rights Reserved. 版权所有