大正大学における仏教教育について


大正大学 仏教学部 教授(学長補佐)
大塚 伸夫

1 はじめに(日本の大学における仏教教育)

日本の大学は国公立と私立に大きく分かれている。各大学において仏教は宗教・哲学系の分野でキリスト教やイスラム教とならんで学ばれる場合が多いが、学部レベルのほとんどでは仏教の歴史や思想が教養の一つとして学ばれ、学生が卒業論文の論題に仏教を選択した際に詳しく学ばれる程度である。しかし、仏教宗派が設立する私立大学においては仏教的精神を建学の理念に据えて、仏教学を専攻する学部・学科において仏教が徹底して学ばれ、他学部の一般学生にも仏教教育が行われている。また、この仏教系大学の多くは「仏教系大学会議」と称する組織(現在64大学が加盟、大正大学も加盟)に所属しており、1年に一度研修会を開催して、大学運営の問題も含めて、いかに学生に対して仏教教育を浸透させるかといった問題も検討されているほど仏教教育に力を注いでいる。

そうした仏教系大学、たとえば禅宗系、日蓮宗系、浄土真宗系、浄土宗系、天台宗系、真言宗系といった各宗派が設立する大学では、祖師の教えと実践にもとづき、その独自性を活かして、変化して止まない現代社会の中で遭遇する困難な状況を切り開き、生き抜くことのできる知恵と力を備えた人材を育成するための仏教教育を行っている。とはいえ、各大学で上述した目的のもとに仏教教育を行うにも共通部分と、そうではない多様な形体をとっている部分がある。共通部分に関しては、基本となる仏教の歴史と思想を扱い、広く仏教について学ぶ。一方、多様な形体の部分では、各宗派の祖師の教えと実践が異なるので、そこに各大学の独自性が発揮されて所属宗派の独自色が反映されることになる。とくに実践面で執行される大学の宗教行事にその違いが現れてくる。この均一ではない多様な実践形体にこそ、日本の仏教系大学の存在意義があるといえるだろうし、人材育成の過程で各祖師の思考性と実行性が活かされるのである。

2 大正大学における全学的な仏教教育

通例、日本の仏教系大学の多くは一宗派によって単独で設立されているが、私の所属する大正大学は、天台宗・真言宗豊山派・真言宗智山派・浄土宗の四宗派が共同して設立しているので、他の大学とは大きく異なる特徴がある。たとえば、自らの宗派が優れているなどといって自宗の優越性を誇ることなく、四宗派が協調して仏教教育に当たっている極めて類例のない大学なのである。そうした学風を支えているのが四宗派に共通する「智慧と慈悲の実践」という建学の理念なのである。この建学の理念をかかげ、本学は1926年に設立され、来年の2016年には設立九十周年を迎える。本学は現在、文学部・表現学部・人間学部・仏教学部の4学部10学科21コースで組織され、来年度には新学部の地域創成学部を設置する予定である。学生が約五千人ほどの小規模大学ではあるが、小規模ながらこその特性をいかして教職員と学生の距離が近い雰囲気を醸成して、大学が位置する巣鴨や豊島区を中心とする地域と連携をはかり、社会に貢献する大学をめざしている。

本学の目指すところは、言うまでもなく建学の精神「智慧と慈悲の実践」を実現することにあるが、これが抽象的であるため、近年「四つの人となる」という教育ビジョンに読み解いて、その実現のために教職一体となって教育活動を行っている。その「四つの人となる」とは、以下に示す仏教精神から導き出されている。
   ①慈 悲 →    生きとし生けるものに親愛の心を持てる人となる。
   ②自灯明 →    真実を探究し、自らを頼りとして生きられる人となる。
   ③中 道 →    執われない心を育て、正しい生き方ができる人となる。
   ④共 生 →    共に生き、ともに目標達成の努力ができる人となる。
多くある日本の大学の中で大正大学を選択して入学する学生が、4年の修学期間をへて卒業していくまでの過程で、いかに学生を育成するかという教育ビジョンは、日本の各大学で分かれるところであるが、上に掲げた仏教精神に根ざした教育ビジョンのもとに学生を教育するのが仏教系大学としての本学の使命であると信ずる。それは、人を導く正しい方向性をもった仏教と教育は、その目指すところが本質的に同一であると考えるからである。

3 むすび(仏教学部における仏教教育)

とくに本学の中で仏教教育に特化しているのが基幹学部となる仏教学部である。この仏教学部は、仏教学コース・宗学コース(天台宗・真言宗豊山派・真言宗智山派・浄土宗)・国際教養コースの3コースで構成されている。仏教学コースでは、宗派に所属しない一般学生が多く、広く仏教聖典を読み解くための基礎語学(漢文・サンスクリット語・パーリ語・チベット語)と仏教の基礎知識を習得し、また仏教美術や仏教文化に対する造詣を深めて、知性と感性の豊かな人間力を形成して、社会に貢献できる人材を育成するよう努めている。次の宗学コースでは、設立四宗派の寺院に所属する学生がほとんどで、各宗派の基礎と実践を総合的に学び、その心を身につける。さらに進んでは専門知識として各宗派の教理、歴史、法儀、伝道方法などを総合的に学んで、寺院の後継者となる人材の育成に努めている。国際教養コースでは、多くが一般学生で、徹底した英語教育を行うとともに、日本の伝統文化や芸術、衣食住の暮らしを体験的に学ぶ。そして日本文化の魅力を世界に発信できる能力を備えた国際人を養成するよう努めている。

このような仏教学部の教育方針を通じて、宗派に所属しない一般学生の仏教的素養を養成しつつ、次代を担う僧尼をも育成している。しかし、決して揚々たる未来が開けているわけではない。日本の文化は、およそ1500年の昔より中国や朝鮮より継承されてきた仏教文化によって醸成されてきたといっても過言ではない。とはいえ、現代日本の現状は経済発展とともに仏教離れ・寺院離れといった社会現象が発生してきて、人心の不安定さが指摘されて久しい。このような現状の日本社会の中で仏教精神を、仏教の思考性を、仏教の崇高さを発信できる人材は社会にとって貴重な存在になると言ってよいであろう。今後とも、本学は建学の仏教精神にもとづき、仏教の伝統のもとに他者を思いやる慈しみの心と、他者と共に生きる精神を育み、秩序ある共存共栄の道を歩むことのできる人材を社会に輩出するよう努めていきたい。

本学の設立宗派である天台宗開祖の最澄も、真言宗開祖の空海も、ともに中国の高僧より教えをいただき自らの宗派を開いたし、浄土宗開祖の法然も中国浄土教の教えに強い影響を受けている。各祖師の教えの故郷は中国にある。そのことに思い至って中国の地で発表できることは無上の歓びであり、祖師のように中国の地で何かを学び取り、新たな気持ちで今後の仏教教育に邁進する決意である。まことに「功の崇きは惟れ志、業の広さは惟れ勤」との言葉のとおり、志を高くして日々努め励みたいと強く思うところである。

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