仏教の平和使命

中央学術研究所--今井克昌

Ⅰ.はじめに

21世紀を迎えた現在、紛争問題、難民問題、貧困問題、そして地球温暖化に代表される環境問題など様々な問題が世界で生起しています。これらの問題を抱えた現代社会において、「仏教の平和使命」について立正佼成会の立場から申しあげます。

Ⅱ.宗教は一人ひとりの心を平和にする

立正佼成会の庭野日敬開祖はかつて「平和とは、人と人との間、人と自然との間に、和やかさと順調さが保たれている状態」と述べました。これは、人間をはじめとしたこの世の中に存在するすべてのものとの間で和やかさと順調さが保たれていることを意味します。この関係を築くには、人間一人ひとりの心が平和的な心になることが必須です。どんなに世の中の仕組みを変えてみても、一人ひとりの心が平和的にならなければほんとうの平和というものは成就できません。ユネスコ憲章の前文にも「戦争は人の心から起こる。ゆえに平和の砦は人の心の上に築かれねばならない」と記されています。

また、法華経の譬諭品第三に「諸苦の所因は貪欲これ本なり」と説かれているように、人間は平和な心とは相反して貪欲、――貪り欲する心を持ち合わせています。この貪欲は、まわりとの調和を無視して自らの利益だけを求め、他との対立や摩擦を起し、さらには社会的な紛争、国家間の戦争にまで発展してしまいます。貪欲を抑制して、つねに他と共に幸せを得たいと望む心を持ち続けることは容易なことではありませんが、宗教はそのことを可能にしていくのです。宗教はその表現方法に違いがあっても、神や仏のみ心のままに生きる生き方、つまりは自己中心的な心を滅し、他を助け、他を愛するという慈悲に満ちた生き方に人々を導いてくれるのです。

Ⅲ.法華経は平和の教え

私たち、立正佼成会の所依の教典は法華経を中心とした法華三部経であります。法華経の中には平和についての教えが多く説かれています。

法華経の冒頭には、釈尊の説法を聞くために集まってくる会衆のことが述べられています。もろもろの菩薩をはじめとして、出家修行者である比丘、比丘尼、在家の信者である優婆塞、優婆夷、まだ信者でない国王、王子、国臣といった上流の人々も国民、国士、国女といった一般大衆、さらには天上界にすむ神々、鬼神、動物たちまで、つまり、宇宙全体のありとあらゆる生命体が等しく説法の座に集まっているのです。ここに法華経の世界観、つまり「この世に存在するすべてのものは、本質的には平等な存在である」という平等観が述べられています。

また、妙法蓮華経法師品第十には「諸仏の所に於て大願を成就して、衆生をあわれむが故にこの人間に生ずるなり」と説かれています。ここには、動物、植物および一切の生きとし生けるものが幸せになるように願ってこの世に人間として生まれてきたという、人間としての使命が述べられています。そして、私たち一人ひとりが「すべての生きとし生けるものの救われと幸せを願ってこの世に生まれてきたという使命」に自ら目覚めることが大切であると述べているのです。

また、妙法蓮華経如来神力品第二十一には、仏が神通力を出されて、いろいろ不思議な現象を現される記述があります。十方世界からさまざまな尊い宝物が降ってきて、それが地上に達するやいなや、一面の美しい帳となって諸仏の上をひといろに蔽った。そして、宇宙のあらゆる生命体が釈迦牟尼仏をはじめとする諸仏を供養申し上げたという場面が出てきます。これは世界中のあらゆる国、あらゆる民族、あらゆる階層が、一つの正しい真理に随順して生きるようになれば、お互いの間に差別感がなくなり、不和や闘争などの不幸な出来事が起こらず、みんな和気あいあいとして働き、生活を楽しみ、大調和の世界が現出するということを指し示しています。

このように、法華経には平和の教え、また平和をもたらす教えを多く見ることができます。

Ⅳ.本会の活動

本会は、1938年に庭野日敬開祖と長沼妙佼脇祖により、約30名の同志と共に創立して以来、その精神は変わることなく「仏教の教えにより、人を救い、世を建て直す」ことにありました。本会の会員は皆、指導者も含めて、出家の僧侶ではなく、家族を持つ在家の修行者によって成り立っています。その在家修行者が釈尊の教えを日常生活の中に具体的に活かすことを通して、大勢の人々が救われてきました。救われた人は、自分だけの救いにとどまらず他人の幸せを願いその喜びを他の方々に伝える。救済と伝道そして自己の練成が一つとなって本会の活動が展開していきます。

また、万人の救いを目指す釈尊の教えをもとにさまざまな活動を展開しています。その一つにあげられるのが諸宗教との対話協力です。志を同じくする多くの宗教指導者と力を合わせて対話協力する中で、世界宗教者平和会議(WCRP)の創設に至りました。WCRPは現在、非武装、人権、開発、環境、紛争和解などの平和の諸課題に対して貢献しています。

対外協力活動では、「一食を捧げる運動」「アフリカへ毛布をおくる運動」「ユニセフ街頭募金」などを通じて世界各地のさまざまな条件下で苦しんでいる方々への支援を行っています。

Ⅴ.結論

庭野日鑛会長は本年の年頭法話の中で次のように述べています。

「釈尊は、一切衆生を救うの心を持って精進しなさいとおっしゃっています。現代的にいうならば、私たちが世界を救う大望をもって精進することであります。万人の救いを目指す釈尊の教えは、さまざまな宗教の中で最も寛容な平和なものであるといわれます。その教えを世界に知らしめることほど私たちにとっての平和的な使命はないと思います」。

釈尊の教えは真理であり、天地の道理であります。そして釈尊が私たちに願った事は、この教えを把握することによって生まれる一切衆生を救うの心であり、万人の救いを願って精進する事であると考えます。

この釈尊の願いを自らの願いとして精進していくことが「仏教の平和使命」であると考えます。

合 掌

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